「仕事が忙しいから仕方がない」
静かなカフェで別れを告げられたとき、私の口から出たのはそんな言葉でした。引き止めればよかった。それなのに、できなかった。
これは、3年付き合った彼女との別れを「忙しさ」のせいにして、自分の手で関係を終わらせてしまった27歳の話です。
📌 体験者プロフィール
・年代・性別:20代男性(体験当時27歳)
・関連カテゴリ:恋愛の後悔・3年交際していた彼女との別れ
・体験形態:実体験ベース
・体験時期:2020年代前半
・当時の状況:都内IT企業勤務・新規プロジェクトのリーダー就任直後
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
銀座のイタリアンで出会った彼女
彼女と最初に会ったのは、銀座にある小さなイタリアンレストランでした。知人の紹介で、店内の落ち着いた照明の下、少し緊張しながら話したのを覚えています。
彼女は笑うと目が細くなる人でした。その柔らかい表情を見ていると、こちらの肩の力もすっと抜けていくような感覚があって、不思議と気持ちが楽になりました。
その日から何度か食事を重ねるうちに、気づけば一緒にいる時間が「当たり前」のものになっていきました。
当たり前になっていく一緒の時間
交際当初は、休日に出かけたり、仕事終わりに食事をしたり。特別なイベントがあるわけでもなく、ただ並んで歩いて、ただ向かい合って食べる。それだけのことが、心地よかった。
今思えば、当時の私はその「当たり前」を、当たり前のままで終わらせないための努力を、何ひとつしていませんでした。
プロジェクト本格化で奪われていった私の時間
ちょうど新しいプロジェクトのリーダーを任された時期で、状況は一変しました。
毎日終電近くまで働き、休日もパソコンを開いて資料を修正する日々が続きました。スマートフォンには常に仕事のチャット通知が届き、寝る前まで画面の白い光が顔を照らしていました。
気が休まる時間はほとんどなく、彼女のことを考える余裕すら、いつの間にか後回しになっていた気がします。
関連記事:女は浮気しないと信じた初恋の遠距離恋愛|浮気で破局した50代男性が今思う自分の落ち度
それでも届いた「お疲れ様」のメッセージ
そんな中でも彼女は、無理に会おうとはしませんでした。代わりに夜遅く、短いメッセージを送ってくれていました。
「お疲れ様、無理しすぎないでね」
たった一言です。でも、その一言にどれだけ救われていたか、当時の私は十分に理解していませんでした。
一度だけ、彼女が私の部屋に来て、簡単な作り置きの料理をテーブルに置いて帰ってくれたことがあります。私はそのときも仕事のことで頭がいっぱいで、きちんと「ありがとう」を伝えることすらできていなかったと思います。
今振り返ると、すれ違いはそのあたりから少しずつ積み重なっていたのだと思います。
日付が変わる直前に送った誕生日メッセージ
彼女の誕生日の日。私は仕事に追われていて、日付が変わる直前にようやく思い出しました。
「おめでとう、今度埋め合わせするよ」
たぶん10秒もかからずに打って、そのまま送った短いメッセージでした。彼女からは「ありがとう」とだけ返事が来ましたが、その後のやり取りは普段よりもどこかぎこちなく、短く感じられました。
本来であれば一緒に過ごすべき日を、私は後回しにしてしまったのです。あのときの小さな違和感を、忙しさのせいにして、私は見過ごしていました。
久しぶりの週末、生返事の私と彼女の視線
ある週末、久しぶりに時間を作って彼女と会いました。彼女は楽しそうに最近の出来事を話してくれていたのですが、私はスマートフォンの通知が気になって、何度も画面を確認していました。
生返事を繰り返す私に対して、彼女が一瞬だけ視線を落とした瞬間がありました。今思えば、あのときの小さな表情の変化こそが、彼女からの最後のサインだったのだと思います。
私はそれに気づきませんでした。いや、本当はうっすら気づいていたのに、気づかないふりをしていたのかもしれません。
静かなカフェで告げられた別れと冷めたコーヒー
数日後、仕事帰りに彼女から「話があるから」と呼び出されました。立ち寄ったのは、駅から少し外れた静かなカフェでした。穏やかな音楽が流れていて、周囲の会話も遠くに聞こえるような、落ち着いた空間です。
彼女は少しうつむきながら、ゆっくりと、言葉を選ぶように話し始めました。
「最近、あまり会えなくて寂しかった。本当はもっと、一緒に過ごしたかった」
その声は小さく、途中で少しだけ震えていました。私はコーヒーに口をつけましたが、味はほとんど感じませんでした。心臓の鼓動だけが、やけに大きく耳に響いていました。
本当ならその場で謝って、なんとか関係を繋ぎ止めたかったはずなのに。口から出たのは、
「仕事が忙しいから仕方がない」
という言い訳でした。自分でも驚くほど冷たい言葉だったと思います。
彼女は一瞬だけ目を閉じて、小さく息を吐いたあと、静かに言いました。
「別れたい」
その瞬間、頭の中が真っ白になりました。引き止めなければいけない。それは分かっているのに、言葉が出てきませんでした。プライドなのか、戸惑いなのか、自分でも分からない何かが邪魔をして、ただ黙って頷くことしかできなかった。
カップの中のコーヒーが、少しずつ冷めていきました。
何もできない自分が、ただそこに座っていました。
関連記事:3年付き合った彼女と自然消滅で終わった後悔|忙しさを理由に動けなかった20代男性の話
彼女のいない部屋に残された冷凍料理
別れた後、部屋に戻ると、いつもとは違う異様な静けさがありました。
それまで当たり前のように届いていた彼女からのメッセージはなく、テーブルの上には、いつか彼女が作って置いていってくれた冷凍の料理だけが残っていました。
それを温めて食べたとき、味がやけに優しく感じられて、同時にどうしようもない後悔が込み上げてきました。涙が出るような派手な感情ではありません。ただ、胸の奥にずっと、重たいものが沈んでいくような感覚でした。
街で似た香りに振り返ってしまう数ヶ月
それから数ヶ月が経っても、その感覚は消えませんでした。街中を歩いていると、ふと彼女が使っていた香水に似た香りがして、思わず振り返ってしまうことがありました。
もちろん、そこに彼女はいません。でも、それでも一瞬だけ「もしかして」と期待してしまう自分がいました。
仕事では結果を出し、周囲から評価されることも増えていきました。でも、その喜びを分かち合う相手がいないことに、ぽっかりと穴が空いたような感覚を抱いていました。
忙しさを言い訳に大切なものから目を背けていた自分
あの頃の私は、忙しさを理由にして、大切なものから目を背けていたのだと思います。
本当は彼女の小さな変化にも気づいていたはずなのに、向き合うことを避けていました。「忙しいから」という言葉は、便利な盾でした。それを掲げている間は、考えなくていい、向き合わなくていい、と思い込めたのです。
失って初めて、その存在の大きさを思い知らされました。
今振り返ると、あのとき、もう少しだけ立ち止まって、彼女の言葉に耳を傾けていればと思わずにはいられません。どれだけ忙しくても相手と向き合う時間を意識して作ること、そして違和感を感じたときに逃げないこと。当たり前のようで、当時の私には一番できなかったことです。
正解だったのかどうか、今でもときどき分かりません。引き止めていたとして、関係が続いた保証もない。でも、少なくともあの瞬間、自分の手で何もしなかった事実は、消えてくれません。
過去は変えられないので、今は目の前の人との時間を、少しずつでも大切にしようと自分に言い聞かせています。
関連記事:仕事を優先して親友を失った20代男性の後悔|結婚式SNSで気付いた完全な疎外
編集部より
仕事の責任が一段増えた直後は、キャパシティを掴むまで時間も気力も総動員になりがちで、その間に身近な人との関係が静かにすり減っていくことがあります。やっかいなのは「忙しいから仕方ない」という言葉が、とても便利な盾になってしまう点です。それを掲げているあいだは、相手の小さな変化に向き合わなくていい、と自分に思い込ませてしまう。すれ違いは大きな事件ではなく、返信の遅れや生返事といった小さな積み重ねから始まることが多く、気づいたときには修復が難しくなっている、という後悔は社会人になりたての時期に少なくありません。
困った時の選択肢
【「忙しいから」で大切な人を後回しにしがちな方へ】
仕事に追われていると、相手の小さな変化に気づいていても、向き合うのを先延ばしにしてしまいます。自分が何を後回しにしているのか、気持ちや行動のクセを書き出して整理できる自己理解・セルフケアのアプリです。
→ 心のAIパートナー【Awarefy】(自己理解・セルフケアアプリ)
そのほか、状況に合わせて選べる窓口もまとめておきます。
・後悔やもやもやした気持ちを、誰かに話して整理したい
→ オンラインカウンセリング cotree
公的な窓口としては、こころのもやもやを無料で相談できる「よりそいホットライン」(0120-279-338)もあります。
大切な人との向き合い方や、すれ違いをめぐる本は、世の中にたくさんあります。気になった一冊を、まず無料で試す方法もあります。
・読んでみる
→ Kindle Unlimited(30日間無料体験)
・聴いてみる
→ Audible(30日間無料体験)
相手のちょっとした変化や、その日の自分の気持ちを書き留めておくと、すれ違いのサインに早く気づけることがあります。5年分を一冊に重ねられる連用日記は、忙しい毎日でも「立ち止まって振り返る」を続けたい人に選ばれています。

