忘れもしない、ある年の5月13日の夕方。
30代の私は、12年間一緒に暮らしてきた愛猫クロちゃんが、急に倒れたのを見た。
慌てて動物病院に連れて行った車の中で、私はずっとクロちゃんに詫びていた。「ごめん、もっと早く連れてきてあげればよかった」と。獣医に告げられたのは、「残念ながら、今晩までですね」という言葉だった。
これは、その日に至るまでに私が何度も「今度こそ病院へ」と思いながら、お金がなくてできなかった時間と、その夜の話だ。
📌 体験者プロフィール
・年代・性別:50代以上 男性
・関連カテゴリ:その他の後悔
・体験形態:実体験ベース
・体験時期:30代当時
・関連領域:野良猫の保護・看取り(12年間飼育した愛猫の死別)
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
野良猫の親子を保護して、家族になった経緯
30代の頃の話だ。当時の我が家では、犬と猫を何匹か飼っていた。
その中に、もともとは野良だった一匹の猫がいた。家の近くに遊びに来るようになった捨て猫に餌をやっているうちに、夜になるとベランダからこっそり入ってくるようになった。
「寒いだろうから、布団に入れてやろう」
そう思って布団で寝かせてやっていた、ある日のことだった。
その猫が、布団の中で出産した。
3匹生まれた子猫を、母猫ごと我が家で飼うことになった。子猫は3匹いて、そのうちの1匹が真っ黒な毛をしていた。「クロちゃん」と名付けたのが、この子だった。
3匹のうち1匹はオスで、去勢をしなかったせいか、大きくなったらどこかへ行ってしまった。残った2匹はメスで、避妊手術をして、長く一緒に暮らした。
12年連れ添ったクロちゃんと、4月に見え始めた異変
クロちゃんは、生まれた時から体が小さく、病気がちな子だった。
ただ、頭はとても良くて、閉まっている戸も器用に開けて入ってくるような子だった。私がトイレに入ろうとすると、後ろから一緒に入ってくるくらい、私に懐いていた。
そんなクロちゃんと一緒に暮らして、12年が過ぎた、ある年の4月のことだった。
クロちゃんが、あまり動かなくなった。
座ったまま、ぼんやりしている時間が増えた。トイレで大きい方をすると、かなり臭いがするようになった。
今思えば、ここで気付いてやればよかった。体の中で何かが起きていたサインだったはずだ。
失業中の私が、動物病院に連れて行けなかった日々
「動物病院に連れて行ってあげなきゃ」
何度もそう思った。けれど、私はその時、失業していた。何より、お金がなかった。
当時もペット保険はあったが、今ほど普及していなくて、私は加入していなかった。動物病院は、診察だけならまだしも、検査や手術が必要になれば、いくらかかるのか見当もつかなかった。過去に他の子の手術で、かなり高額な請求を受けた経験もあったのだ。
「すまない」
そう思いながら、クロちゃんを病院に連れて行けないまま、日々が過ぎていった。
5月のゴールデンウィークの間、クロちゃんは不思議と元気に飛び回っていた。「もう大丈夫かもしれない。よかった」と、私は少しだけ安心していた。
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忘れもしない5月13日の夕方、急に倒れた愛猫
ゴールデンウィークが明けて、その週のことだった。
忘れもしない、5月13日の夕方。クロちゃんが、急に倒れた。
もうお金のことなんて、言っていられなかった。
キャリーケースにクロちゃんを入れて、私はすぐに車を出した。通い慣れた動物病院に向かう車の中で、何度もクロちゃんに詫びた。
「クロちゃん、ごめん」
「もっと早く連れて行けなくて、ごめん」
ハンドルを握りながら、自分の声が震えていたのを覚えている。
「今晩までですね」獣医に告げられた言葉と、最後の一晩
獣医の先生に診てもらった。
「先生、どうでしょうか」
私は祈るような気持ちで聞いた。注射でも薬でも、何かしてもらえれば、まだ治るんじゃないかと思っていた。
返ってきたのは、思ってもいなかった言葉だった。
「残念ながら、今晩までですね」
目の前が真っ暗になった。
その後、どうやって家まで車を運転して帰ったか、正直あまり覚えていない。「とにかく温かくしてあげてください」という獣医の先生の言葉だけは、頭の中に残っていた。
家に着いてから、お湯を入れたペットボトルをタオルにくるんで、クロちゃんの体を温めた。
夜は、一晩中起きて、クロちゃんの隣で過ごした。クロちゃんはいつも、私の布団の中で一緒に寝る子だったから、最後の夜も、ちゃんと一緒にいてあげたかった。
息はだんだん弱くなっていった。
私は何度も泣きながら、その息の音を聞いていた。
「ごめんね。ごめんね」
きちんと働けていれば、お金さえあれば、もっと早く病院に連れて行ってあげられたのに。そう思いながら、何度も、何度も詫びた。
翌朝、クロちゃんは私の隣で息を引き取った。
火葬を済ませて、1ヶ月泣いて、ようやく区切りがついた
次の日に、ペット霊園で火葬してもらった。家の庭に、小さなお墓を作った。
それからの1ヶ月、私は自分でもおかしいと思うくらい、毎日泣いていた。何をしていても、ふとした瞬間にクロちゃんを思い出して、また泣いた。
「あの時、お金がなくても、無理してでも連れて行けばよかった」
「4月の時点で、何とかして借金してでも病院に行けばよかった」
毎日、後悔ばかりだった。
1ヶ月くらい経って、骨壺を庭のお墓に埋めた頃に、ようやく自分の中で区切りがついた感覚があった。
残された猫たちを最後まで看取った、自分なりの詫び
クロちゃんへの詫びは、残された猫たちへの行動に変わった。
その後、母猫ともう一匹の子猫が老いていく中で、私は仕事も安定していた。だから、ほんの小さな異変でも、すぐ動物病院に連れて行くようになった。「これくらいなら」と思わなくなった。
少しでも食欲が落ちたり、動きが鈍くなったら、すぐに獣医に診てもらった。
おかげで、2匹は最後まで天寿を全うすることができた。
それが、私にできる、クロちゃんへのせめてもの詫びだった。
ペットを飼うあなたへ、経済的責任を考えてほしい
ペットを飼うことを考えている人に、伝えたいことがある。
ペットの医療費は、思っている以上に高額だ。飼い主の都合で、失業している時、生活に余裕がない時にペットが病気になれば、ペットにも、自分にも、両方に深い悲しみを抱えさせることになる。
私の時代と違って、今はペット保険がいろいろある。できるだけ若い時期から、保険には加入しておいた方がいい。
ただ好きだとか、面倒を見られるからとか、それだけで決めないでほしい。お金がかかることなのだ。経済的な責任を取れるかどうか、深く考えてから飼ってほしい。
それでも、ペットと一緒に過ごす時間は、何にも代えがたい時間だ。できることなら、その小さな命と過ごす日々を、味わえる人生を送ってほしい。
そして、もし飼うと決めたなら。飼っているペットの小さな異変を、見過ごさないでほしい。「これくらいなら」と思わないで、すぐに動物病院に連れて行ってあげてほしい。
私のように、一生消えない後悔を抱えなくて済むように。
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編集部より
ペットの医療は人間の健康保険のような公的制度がなく全額自己負担で、検査や手術になると費用の見通しも立てにくいのが実情です。そのため「もう少し様子を見よう」と受診をためらっているうちに、手遅れになってしまうケースは決して珍しくありません。近年はペット保険や、日々の体調を記録できる見守りの仕組みも広がってきていて、いざというときの金銭的な負担を抑えたり、小さな異変に早く気づいたりする助けになります。元気なうちに備えを整えておくことが、後悔を減らす現実的な一歩になります。
困った時の選択肢
【次の子の”小さな異変”を見逃したくない方へ】
体調の不調は、食欲やトイレの変化など毎日のちょっとしたサインに表れます。猫のトイレ(排泄)の状態を自動で記録し、体調トラブルの早期発見を助けてくれる見守りデバイスです。
→ Catlog Board(猫の体調を見守るデバイス)
そのほか、状況に合わせて選べる窓口もまとめておきます。
・大切な存在を失った悲しみを、誰かに話して整理したい
→ オンラインカウンセリング cotree
・自分を責めすぎてしまう気持ちを、少しずつ整理したい
→ 心のAIパートナー【Awarefy】(自己理解・セルフケアアプリ)
公的な窓口としては、つらい気持ちを無料で相談できる「よりそいホットライン」(0120-279-338)が、ペットとの別れの悲しみにも対応しています。
ペットとの別れや、その後の気持ちとの向き合い方をめぐる本も、たくさんあります。気になった一冊を、まず無料で試す方法もあります。
・読んでみる
→ Kindle Unlimited(30日間無料体験)
・聴いてみる
→ Audible(30日間無料体験)
お別れの悲しみのなかで、うまく言葉にできない気持ちにそっと寄り添ってくれる絵本として、長く読み継がれている一冊です。

