4月のある日、私の手の中で、フトアゴヒゲトカゲは動かなくなりました。
いい大人だったので大声は出さないように気をつけました。でも、涙だけは止まらなかったんです。
あれからもう数年経ちますが、心に開いた穴は、今も完全には埋まっていません。
これは、ペットロスの破壊力を完全に甘く見ていた、30代男性の話です。
体験者プロフィール
・年代・性別:30代男性
・関連カテゴリ:その他の後悔(ペットロス/飼育の後悔)
・体験形態:当事者(飼育者として)
・飼育期間:5年間(20代の頃の出来事)
・ペット:爬虫類(フトアゴヒゲトカゲ)
プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
父が爬虫類をもらってきた日、私の覚悟は決まっていなかった
私は元々、生き物が好きでした。動物関係の動画をよく見ていて、周りも私の動物好きを知っていたので、「飼ってみたら?」とよく勧められていたんです。
ただ、生き物が好きだからこそ、飼育の大変さと責任の重さがある程度想像できていたので、「自分は飼わない」というのが当時の私のスタンスでした。
そんなある日、父が知人から爬虫類のフトアゴヒゲトカゲをもらってきてしまいました。
爬虫類も好きで、その中でもフトアゴヒゲトカゲは特に好きな種類だったので、うれしさはありました。でも同時に、飼育の経験がない私の中で、「本当に自分が育てられるのか」という不安が大きく膨らみました。
父にしてみれば、犬などとは違って小さい生き物で散歩の必要もなく、ケース内で全てが片付くからいいんじゃないか。そういう配慮からの行動でした。もらってきてしまったものを無下にもできず、覚悟が決まらないまま、私の飼育生活が始まったんです。
生餌に向き合えなかった私と、人工フードに頼った日々
実際に育ててみると、想像以上に大変でした。
フトアゴヒゲトカゲの主な餌は、生餌と野菜です。両方をバランス良く食べさせて初めて、健康が維持できる。でも、うちの子はあまり野菜を食べてくれませんでした。
栄養バランスを考えた爬虫類用の人工フードがあると知って、それは食べてくれたので、そちらで補うことにしました。
ただ、それ以上にきつかったのは生餌の扱いでした。
自分を含めて、生き物が生きるには他の命の犠牲が必要だということは知っています。食事のときに感謝の気持ちを忘れたことはありません。でも、生餌を与えるとなると話が変わりました。
食用になる虫を、自分の手で殺している。
そういう感覚が前面に出てきて、虫たちへの申し訳なさで精神的にしんどくなってしまったんです。結局、生餌は爬虫類用の保存がきく昆虫の缶詰で代用しました。
エサの問題は、人工フードと昆虫缶詰でなんとか落ち着きました。
でも、野菜をあまり食べさせてあげられていない事実や、本来の生餌を避けたことが、「飼育者としては不適切なんじゃないか」という後悔として、自分の中にずっと残り続けることになりました。
田舎では飼育道具が手に入らず、車で往復2時間の店に通った
金面や飼育手法の面でも、きつい部分が多かったです。
当然お金はかかります。それ以上に困ったのは、近場のペットショップやペット用品店に、爬虫類関連の商品がほとんど置いていないことでした。
田舎育ちで、近場のお店には爬虫類用の餌も飼育ケース用の道具も売っていない。フトアゴヒゲトカゲの飼育道具を買うのに、車で往復2時間の店に何度も通うことになりました。これも想像以上に大変な作業でした。
それから、爬虫類は定期的に紫外線を浴びる必要があります。紫外線の出るライトはケースに設置していましたが、自然の太陽光と比べると紫外線量ははるかに劣ります。だから、日光浴をさせるためにケースから出して、外に散歩に行く必要が出てきました。
父が配慮してくれた「散歩の必要がない」という話も、結局のところ、日光浴のためには外に出ざるを得なかったんです。
それでも、可愛くて可愛くて仕方がなかった5年間
ここまで書くと、「大変だったから後悔したのか」と思われるかもしれません。実際、覚悟が決まらないまま始まった飼育は想像以上に重く、後悔の念がなかったかと言われれば嘘になります。
でも、飼育の大変さに慣れていくと、育てているフトアゴヒゲトカゲへの愛情が日に日に増していきました。
可愛くて可愛くて仕方がない。
最初は「育てるのが大変だ」としか思えなかった存在が、いつの間にか「この子のいない日常が想像できない」ほど愛しい存在になっていました。
朝起きて様子を見に行く時間、エサを食べる姿を眺める時間、ケースから出して日光浴に連れて行く時間。どれも私の日常の一部になっていきました。
大変だった分、愛情も濃かったのかもしれません。
5歳の春、急に動かなくなったあの子
そんな飼育を始めて5年が経った頃。
ペットを育てる者として避けて通れない瞬間が、やってきました。
ネットで調べたとき、フトアゴヒゲトカゲの飼育下での平均寿命は7年だった記憶があります。でも、あくまで平均です。
うちの子は5年目を迎えた春、食事を取らない、あまり動けない、という状態になってしまいました。
まだ5歳。平均寿命まで2年もある。だから「大丈夫だろう」と思い込んでいました。それなのに、急激に弱っていくフトアゴヒゲトカゲを目の前にして、言いようのない悲しみとショックに襲われたんです。
まだまだ一緒にいられるはずだった。そう信じきっていた私にとって、目の前の現実はあまりにも受け入れがたいものでした。
4月のある日、私の手の中で動かなくなった
そして、4月のある日。
うちにきた子は知人から譲ってもらった子なので、本当の誕生日はわかりません。私はうちにきた10月を、なんとなく誕生月として扱っていました。
誕生日ですら曖昧な存在だったのに、亡くなった4月のあの日のことだけは、不思議なほどはっきり覚えています。
フトアゴヒゲトカゲが死んだ日。
大変なこともたくさんあったし、後悔もしました。それでも、私にとっては5年間まるごとが幸せでした。その幸せな5年間が、終わった日です。
動かなくなったフトアゴヒゲトカゲを抱いて、その日は何度も泣きました。
いい大人だったので、大声は出さないようにと気をつけてはいました。でも、涙だけは止まりませんでした。
関連記事:父が亡くなった夜に実家を素通りした22歳の後悔|33年経って気づいた親孝行のかたち
心に開いた穴と、いつまでも続く問い
あの子がいなくなってからは、心に大きな穴が開いたような気持ちでした。
幸せだった5年間を、否定したいわけではありません。でも、「こんなに苦しいなら、最初から育てなければよかったんじゃないか」という後悔が、ほんの少しも生まれなかったかと言われれば嘘になります。
それから、「野菜を食べてくれないから」と人工フードと昆虫缶詰に移行したこと。あれが平均寿命まで生きられなかった原因なんじゃないか。今度はフトアゴヒゲトカゲに対する飼育行動そのものが、私の後悔の対象になりました。
もう数年前のことなので、ある程度は立ち直れたつもりでいます。
それでも、ペットロスの破壊力がこれほどまでに大きいとは、飼う前の私は全然想像できていませんでした。
生き物が好きだから、ペットロスの悲しさそのものは飼育前にも想像していたつもりでした。でも、全然足りていなかった。あの子を失って、初めて気付いたんです。
ある程度立ち直った今、改めて振り返ると、考えてしまうことがあります。
自分の飼育方法は、正しかったのか。
もうちょっと長生きさせてあげられたんじゃないか。
あの子は、私に飼われて、幸せだったのか。
考えても答えは出ないけれど、未だに考えてしまうくらい、自分の中で後悔の記憶が深く根付いています。
関連記事:猫の飼い方を何も知らなかった後悔|無知ゆえに何匹もの命を縮めた女性の懺悔
同じようにペットを愛するあなたへ
多くの幸せの記憶を一生忘れないのと同じように、きっとこの後悔も一生付き合っていくものなんだろう。今は、そう思っています。
もしこの記事を、これからペットを迎えようとしている方や、ペットを失ったばかりの方が読んでいたら、伝えたいことがあります。
ペットロスは、思っているよりずっと深く、ずっと長いです。
「自分は大丈夫」「数日泣けば落ち着くだろう」と、私も思っていました。でも、ペットロスは飼育の延長線上にあるもうひとつの「育てる」時間で、そう簡単に終わってくれるものではありません。
それでも、5年間私のところに来てくれたあの子と過ごした時間は、私にとってかけがえのないものでした。大変さも後悔も愛情も全部ひっくるめて、もう一度同じ時間を選ぶか、と聞かれれば、私はきっと選ぶと思います。
そして、同じように後悔と一緒に生きていくのだろうと思います。
関連記事:失業中で動物病院に連れていけなかった後悔|30代で看取った愛猫クロちゃんとの別れの話
編集部より
ペットを亡くした悲しみの深さは、相手が犬や猫か、それとも爬虫類のような小さな生き物かで決まるわけではありません。ただ、フトアゴヒゲトカゲのようなエキゾチックアニマルは、飼育情報も気持ちを分かち合える相手も犬猫ほど多くなく、「たかが」と受け取られて悲しみを一人で抱えやすい傾向があります。寿命や体調変化のサインについて確かな情報が少ないぶん、見送ったあとに「あの世話で本当によかったのか」という問いが長く残りやすいのも、この種のペットロスにつきまといがちな重さです。
困った時の選択肢
【気持ちを誰かに話したい方へ】
ペットロスの悲しみや「あの飼い方でよかったのか」という問いは、一人で抱え込むほど出口が見えにくくなります。オンラインで専門のカウンセラーに、今の気持ちをそのまま話せる窓口です。
→ オンラインカウンセリング cotree
そのほか、状況に合わせて選べる窓口もまとめておきます。
・あの子と過ごした日々を、形に残したい
→ うちのこ写真集(思い出を一冊の本に)
・まず自分の気持ちの整理・自己理解から始めたい
→ 心のAIパートナー【Awarefy】(自己理解・セルフケアアプリ)
公的な窓口としては、こころの不調全般を無料で相談できる「よりそいホットライン」(0120-279-338)が、ペットとの別れの悲しみにも対応しています。
ペットを見送った悲しみや、その後の心の整理をめぐる本も、たくさんあります。気になった一冊を、まず無料で試す方法もあります。
・読んでみる
→ Kindle Unlimited(30日間無料体験)
・聴いてみる
→ Audible(30日間無料体験)
お別れの悲しみのなかで、うまく言葉にできない気持ちにそっと寄り添ってくれる絵本として、長く読み継がれている一冊です。

