「じゃあ行ってくるからな。頑張れよ。」
仕事に行く前、そう言ってモコの手を握ったのが、生きているあの子に交わした最後の言葉になりました。
📌 体験者プロフィール
・年代・性別:20代男性(体験当時)
・関連カテゴリ:ペットの後悔(犬・ウェルシュ・コーギー・ペンブローク)
・体験形態:実体験ベース
・飼育期間:約14年
※プライバシー保護のため、個人が特定されない範囲で仮名化・一部詳細を変更しています。
両親の留守中に、弟が連れてきた小さな命
我が家には、ペットショップで買われてきたウェルシュ・コーギー・ペンブロークがいました。名前はモコ。
前に飼っていたシベリアンハスキーが亡くなってから、家族の間では「二度と犬は飼わない」と決めていたんです。
それなのに、両親の旅行中に、弟がコーギーの子犬を勝手にペットショップから買ってきました。
「売れ残りで数万円だったし、こっちをずっと見ていたから」
足が止まって、買ってしまったのだとか。
親が旅行から帰ってきたときには、犬のケージから餌から一通りそろった状態で、犬がそこにいるという状況がもう出来上がっていました。
「勝手なことをして!」
母はビックリしていましたが、それも最初のうちだけでした。
コーギーの子どもにしては、ずいぶんと小さくて。すぐ死んでしまうんじゃないか、そう思うぐらいに弱々しかったからです。
頑固で神経質、それでも愛おしかったモコとの14年
しかし、モコは我が家の住人として、すくすく成長していきました。
コーギーという犬種は敏感で、神経質な犬種だと言われます。モコもそのクチで、背中から触られるのを嫌がり、時には「ウーッ」と唸ったりもしてきました。
それでも基本的には好奇心旺盛で、こっちが部屋にいるといつの間にか座布団の上で横になっている。そんな可愛い犬でした。
一番大変だったのは散歩です。モコはとにかく性格が頑固で、行きたくないところには絶対に行かない。
「こっちだよ」と言ってもグッとリードを引っ張り、ジーッとこっちを見る。まさに「寒いから嫌だ、帰ろう」と言っているような目でした。
大変な犬でしたが、なんだかんだで一緒にいる時は癒されましたし、餌をあげたり、ゴハンのあと一緒にソファにいる時などは、お互いに安心しきっていたと思います。
14歳の春、頭に見つかった腫瘍
そんなモコも14歳になったある日、家族がモコの頭に腫瘍が飛び出ている、かさぶたのようなものがあるのを発見します。
獣医に見せると腫瘍とのことで、これが悪さをしたらもう長くはない。そんな話を聞かされ、僕は一気に気持ちが落ち込みました。
ペットとの別れは、これが辛いんです。前のハスキーの時もそうでしたが、犬って急に苦しがったりして、亡くなるときはすぐに逝ってしまう。
それを経験しているからこそ、悲しさがもう目の前にまで迫ってきている。そんな予感がしました。
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転職したばかりの日々、「頼むから」と祈っていた
ちょうどその時期、僕は新しい仕事が決まったばかりでした。
普段は元気にしているモコも、頭のかさぶたを触られると痛がったりするので、家族は気が気ではありませんでした。
いつ腫瘍が悪さをするかわからない。そんな時間が刻々と毎日過ぎていく中、僕は仕事中に
「頼むから帰ったら死んでいるとか、そんなことはやめてくれ……」
と願い続けていました。
休日の昼間、突然の痙攣とかさぶた
それは、ある日突然にやってきました。
休日の昼間、家族で居間にいたところ、隣で寝ていたモコが激しく痙攣し始め、泡を吹き始めたのです。
「モコ!どうしたの!大丈夫!?」
母が慌ててモコをさすったりしました。
しばらくして痙攣は治まりましたが、もういつ亡くなってもおかしくない状況になっていました。
その日からモコは1階の階段下に住処を移しました。当時の家族の住まいは2階だったので、何かあった時にすぐ病院に運ぶことができなかったからです。
時間を少しでも短くして、何かあったらすぐ病院に連れていきたい。そんな思いを、家族全員が抱いていました。
最後の朝、交わした「行ってくるからな」
そしてその日は来ました。モコはもう動けなくなっていて、目だけが動くような状況になっていました。
朝、仕事に行くとき、僕は嫌な予感がしました。
もう、生きているモコを見るのはこれが最後かもしれない。そんな思いを抱きながらも、会社には行かなくてはなりません。
行く前に僕はモコの手をギュッと握って
「じゃあ行ってくるからな。頑張れよ。」
と言いました。モコはジッとこっちを見ていましたが、その目には涙が溜まっているように見えました。
あれはモコにとって、自分に行かないで欲しいと願っているような、そんな感じさえしました。
仕事から帰ると、箱の中にモコがいた
仕事が終わってすぐに帰ってきた僕が、急いで玄関を開けると、そこには箱に入ったモコがいました。
モコは、亡くなっていました。
母が亡くなったあとの処置をしたそうで、箱の中には花がいくつも入っていました。
話によると、お昼ごろ、両親が祖母の面倒を見ていて、午後になってからモコの様子を見に行ったところ、
「おい、モコが動いてないぞ!」
と父が母に伝え、それでいつの間にか亡くなっていたそうなんです。
寂しかっただろうな、と思いました。
あれだけ家族で見ていたのに、ふとしたときに具合が悪くなり、薄れゆく意識の中で、モコはきっと寂しかっただろうし、誰か助けてと思ったことだろうと思うと、涙があふれてきました。
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固くなった手と、夜のお別れ
そっとモコの手を握ってみると、朝とは違ってもう固くなっており、ああ、本当に逝っちゃったんだな、と心にぽっかりと穴が空いたような気分でした。
それからすぐに、夜でもやっているペット葬儀屋さんに連絡をし、来てもらって、箱ごとモコを持っていってもらい、樹木葬という形にしてもらうことにしました。
もう夜も遅かったので、最期、葬儀屋さんにモコを引き渡すとき、玄関で最後のお別れをしました。
僕がもう少し遅く仕事が決まっていれば。その日が休日なら。きっと看取ってあげられただろうと思うと、やっぱり後悔の念が先に来ました。
でも、ペットを飼う以上、最期の後悔というのは誰もが抱くものだと思っています。
後悔と、それでも大きい「ありがとう」の気持ち
それを越えてこそ、命の大切さ、優しさというものに触れるのだろうし、大人になってもその気持ちは変わることはありません。
今でも、ふとした時にモコのことを思い出します。
寒い日に散歩を嫌がって踏ん張っていたことや、気づけば座布団の上で丸くなっていた姿。何気ない毎日の記憶ばかりですが、そういう普通の時間こそが、一緒に生きていた証なんだろうなと思います。
最期を完璧な形で見送ることはできなかったかもしれません。それでも、モコが我が家に来てくれて、本当に良かったと思っています。
あの小さかった子犬は、14年という長い時間を家族として生きて、たくさんの思い出を我が家に残してくれました。
散歩の時の頑固な顔、餌をあげるときだけ喜び勇んで駆け寄ってきたズルい顔。でも、ふとした時に寄り添ってくれたあの優しさは、忘れることはないでしょう。
モコが逝ってから、うちでは新しい犬を迎えていません。今は、弟が飼っている犬を、家族みんなで可愛がっています。
だから今は、寂しさよりも「ありがとう」の気持ちのほうが大きいです。
モコ、今まで本当にありがとう。
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大切な家族の最期に、立ち会えなかったあなたへ
覚悟はしていたはずなのに、最期の瞬間だけは選べなかった。そんな巡り合わせに苦しむ人は、ペットの看取りでは決して少なくありません。
仕事や生活を止められない以上、「その日」が自分の不在中に訪れてしまうことは、誰にでも起こり得ます。
それでも、最後にかけた言葉や、そばで過ごした年月そのものが、看取れなかった数時間より軽いわけではないはずです。
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